労働時間貯蓄制度とは?日本でこの制度が広まらないのはなぜ?
「労働時間貯蓄制度」という言葉を聞いたことがありますか?
これはドイツなどで採用されている労働に関する制度の1つです。
日本でも2019年4月から働き方改革関連法が施行されますね。
これによって、少しずつ働く側が自分の働き方を自分で選べるような社会になることが期待されています。
日本人の働き方の1つの方法として今後取り入れられるかはわかりませんが、他の国で取り入れられている「労働時間貯蓄制度」についてご紹介したいと思います。
労働時間貯蓄制度とは
労働時間貯蓄制度とは、
です。
通常、1日の労働時間が8時間を超えた場合、超えた分は『残業』して扱われます。
会社は、社員が残業をした場合は、割り増し分を含めた賃金を支払わなければいけないということになっているんですね。
ですが労働時間貯蓄制度は、残業した分の時間を
- 休暇
- 早退
- 遅出
などに振り分けることが、できるのです。
期間は1年から3年など、長期間、振り分けることができます。
日本で導入されているフレックスタイム制を、より柔軟にしたイメージですね。
フレックスタイム制は、一日のうちで決まった時間(コアタイム)、たとえば10:00から15:00に勤務すれば、後の時間は自由に配分していいという制度です。
1か月を単位として、既定の労働時間以上になるように、自由に調整することができます。
(働き方改革関連の改正により2019年4月から、3カ月を単位として計算するようになります)
ただしコアタイム中は出社しないといけないので、残業をためておいて出勤日を休暇に割り振ることはできません。
(休んだ場合、欠勤、または有給休暇扱いになります)
(※コアタイムがない、完全フレックスタイム制もあります。この場合も、出勤日を休暇に割り振ることはできません。)
ただ労働時間貯蓄制度は、実際には、貯蓄できる時間の上限があったり、休もうと思っても職場の状況などで休めないなどの問題があるようです。
労働時間貯蓄制度の利点
労働時間貯蓄制度の良い点についてお伝えしますね。
子どもを持つ女性の場合、夏休みや冬休みなどお子さんが長期休暇に入る月がありますよね。
でも仕事をしていると、子どもと一緒に母親も長い休みを取るのは難しいです。
でも、会社が「労働時間貯蓄制度」を利用していたとしたら…
たまった残業時間を、休みたい月にまとめて休暇として使うという働き方が可能になるんですね。
また会社側は、残業代を割り増しして支払う必要はありません。
両者にとって、プラスになる制度なんですね。
ドイツの先進職場では残業時間を貯めて休む?
現在日本ではこの制度を採用している企業はほとんどありませんが、ドイツでは「残業時間貯蓄制度」を利用している会社が多いんです。
ドイツの先進の職場では、残業時間を貯めて、まとめて休みという考え方が一般的になっているといっても過言ではないんですね。
少し古いデータですが2012年の調査によると、ドイツの年間の労働時間が1,393時間に対して、日本は1,745時間で352時間もの差があるんです。
■参考:なぜドイツの 労働時間は短いのか(http://www.newsdigest.de)
これを単純に計算すると
- 1か月あたり29時間以上
- 一日8時間労働として月3日以上
も、日本人の方が多く働いているということになります。
休暇に対する考え方もですが、ドイツはそもそもの労働時間が短い国といわれているんです。
うらやましいですよね。
労働時間貯蓄制度の導入で生産性は日本の1.5倍に!
私を含めて日本人の場合、
なんて気持ちになる人が多いですね…
ところがドイツでは労働時間貯蓄制度を導入したことで、日本と比較して一時間あたりの労働生産性が1.5倍になったという結果が出ているのです。
■参考:残業した時間「ためて休む」 ドイツ先進職場の働き方(https://style.nikkei.com/)
仕事をするときは、集中して効率的にこなし、休むときはしっかり休暇を満喫することで、仕事の効率があがっているということなのかもしれませんね。
日本で労働貯蓄制度が広まらない理由
労働時間の短縮についての動きは、ドイツではなんと1950年代の半ばから本格的に始まったといわれています。
今から約70年も前から始まっているということですね。
日本の労働者の働き方を見直すための、改革関連法の施行が2019年にようやく始まります。
ですが労働時間貯蓄制度については、あまり話がでてきませんね。
それには労働時間貯蓄制度を導入しても、あまり広まらないだろうという考えがあるのかもしれません。
その理由には、どのようなことがあるのでしょうか。
理由1:休暇を取ることに躊躇してしまう国民性
日本で労働時間貯蓄制度が広まらない理由として、次のことが考えられます。
それは、一生懸命働いている人ほど、休暇を取ることに躊躇(ちゅうちょ)してしまうということ。
これは労働者側が
とか、逆に上司側が
というような、古い考え方に縛られている人が多い、ということがいえると思います。
たしかに、不真面目な仕事はよくありません。
ですが自分の人生は自分のものですから、自分の人生を楽しむ権利だってあるはずだと思うんですけど、大きな声でいえないのが現状ですよね。
こんな状況では、労働時間貯蓄制度を導入しても、残業時間がたまっていくだけで、誰も消費しませんよね。
「ワークライフバランス」という言葉だけは浸透してきましたが、本当の意味でこの言葉を理解していない人が多いんじゃないかな?と個人的には思っています。
上記の内容を裏付ける結果として、日本の有給消化率は50%以下という調査結果が出ています。
■参考:年次有給休暇の取得率等の推移(全国)(https://jsite.mhlw.go.jp/)
働き方改革関連法の施行で、2019年4月から年間で5日間の有給消化が義務化されることになりました。
これに伴い年間の会社の休日日数を5日間減らし、減らした分を有給にすることが決定している会社があるそうです。
法の改革が先行して、現場の対応が追い付いていないと、こんなおかしなことが現実として起こってしまうんですね。
理由2:人手不足
複数の業務を一人の担当者が受け持っているケースは、中小企業ではめずらしくありません。
そしてその状況が長く続くと、担当者が会社を休んだ時に、他の人は内容がわからず対応ができないという状況になります。
企業としては、休まれたら困ります。
また人手不足でいつも忙しく、休める状況ではない企業も多いです。
こんな環境のなかでは、労働時間貯蓄制度を導入しても、利用できないですね
理由3:人に頼るのが苦手
日本は、ドイツに比べて労働生産性が低いといわれています。
別の言い方をすると、効率が悪いといえます。
日本人の国民性の1つとして、1つの仕事に対して真面目で丁寧だということが挙げられます。
しかしその反面、行き詰ったときや仕事が集中してしまったときでも、他の人に頼ることができない人が多いです。
そのため、無駄に時間を浪費してしまうんですね。
残業時間を貯蓄して休暇をとる場合、自分の仕事を誰かにお願いしておく必要があります。
ですが誰かにお願いするのが苦手という人は、率先して休暇をとることができません。
そのため労働時間貯蓄制度を導入しても、利用を控えてしまうことが考えられますね。
日本で労働貯蓄制度を導入するには?
労働貯蓄制度というものがどんなものか?
それと現状日本では、導入しても休暇がとりにくいことが、おわかりいただけたと思います。
日本で労働貯蓄制度を導入するには、まずは労働者が休みたいと思ったときに、遠慮せずに休める環境つくりが必要です。
ではどうすれば、そのような環境を作ることができるのでしょうか?
仕事は人に対応させるのではなく企業に対応させるような改善をする
日本では、仕事は人に対応しているケースがほとんどです。
ですが海外の場合は、仕事は企業で対応できるよう整備されている会社が多くあります。
複数の人が仕事の内容を把握していて、一人休んでも、別の人がすぐに対応できる仕組みが確立されているんですね。
日本ではこのようなしくみで仕事をしている会社は少ないです。
日本でこの制度を利用するためには、仕事を人に対応させるのではなく、企業に対応させるしくみを作ることが必要です。
誰がどんな仕事をしているのか共有できる環境を作る
担当者以外に誰も内容を把握していない
そんな状況になってしまうのは、なぜでしょうか?
それは、
- 誰がどんな仕事をしているのか
- その仕事の内容はどんなものなのか
ということを、社内で共有する環境がないということが原因の一つです。
またシステム的な環境があっても、他の人の仕事を理解するだけの時間的余裕がない、という状況も原因です。
少なくても同じ部署やチーム内では、仕事内容を共有して協力し合える環境を整える必要がありますね。
まとめ
いかがでしたか?
「労働時間貯蓄制度」という制度の内容についてお伝えしてきました。
日本でも働き方改革関連法の施行により、法律によって働き方や休暇取得の考え方が変わっていくことが期待されています。
その反面、古い考え方も根強く残っているので、現状がすぐに変わるというのは難しいと思います。
ですが、これから日本の働き方改革が進み、新しい考え方を取り入れる経営者が増えてくれば、日本でも「労働時間貯蓄制度」を導入する企業が増えてくるかもしれませんね。